90歳からの腎代替療法(透析治療)を考える
前々回のコラムで、腎不全のお話、腎臓が悪くなるとどうなるか?の解説をしました。
今回は、腎機能がさらに悪化し、いよいよ末期腎不全となった時、どういった治療選択肢があるのかについてお話しします。
おさらいですが、腎臓が悪くなり末期腎不全という状態になると、尿毒症(体に毒素がたまり、ぼーっとしたり気持ち悪くなったりする)や、心不全・肺水腫(肺に水がたまる)、意識障害、けいれんといった症状が起こりやすくなります。

状態が落ち着いている場合はお薬の調整で様子を見ますが、いよいよ難しい場合は入院での治療を考えます。
この時の治療開始の判断が遅ければ遅いほど身体の回復に時間がかかってしまいます。
どういった治療をどこまで、どこで(病院?自宅?)受けたいか、早めに決めておくことで、辛い思いをしたり不本意な治療を受けたりする可能性は下がるでしょう。
あなたもしくはあなたのご家族は、80歳、あるいは90歳になって、透析の治療を受ける選択をしますか?
今回はそんなお話です。

末期腎不全の治療法
末期腎不全に対する治療法は大きく2つあります。
腎代替療法と保存的腎臓療法です。
それぞれについて説明します。
① 腎代替療法
腎臓は身体の「ろ過装置」で、血液の中の老廃物や余分な水分を取り除きます。
しかし腎臓の働きが大きく弱ってしまうと、この役割を果たせなくなります。

そのときに「腎臓の代わりに働く治療」が必要で、これを「腎代替療法」といいます。
腎代替療法には大きく分けて以下3つあります。
血液透析、腹膜透析、腎移植についてそれぞれ解説します。
血液透析(けつえきとうせき)
機械の中に血液を通して血液をきれいにする方法です。

透析クリニックや病院へ通院し、治療は週に3回、1回あたり4時間ほどかかります。
血液透析を始める前に透析に使うシャント血管やカテーテルを作成・留置する必要があります(手術が必要です。)
自宅でできる血液透析(在宅血液透析)もありますが、患者さんと介助者(同居の家族など)で回路や物品、薬液のセッティングを行う必要があります。
在宅血液透析は、自分のタイミングで透析を行うことができる一方で、本人や介助者への負担が大きいこと、透析に必要な物品の管理の問題などがあります。
腹膜透析(ふくまくとうせき)
自分のお腹の中にある「腹膜」を使う透析方法です。
お腹の中にカテーテルを埋め込む手術を行った上で、お腹の中に透析液を入れたり、出したりすることで血液をきれいにします。

治療時間は人によりますが、1日に数回、本人や介助者の手で透析液を出し入れします。
定期的に医師の診察を受ける必要はありますが(月に1回程度)、自宅で行うことができる自由度が高い治療法です。
感染症やカテーテルトラブル(出血や閉塞など)に注意が必要です。
また、長い年月透析を続けていると腹膜が硬くなってくるため、5-8年程度経つと他の腎代替療法を考える必要があります。
腎移植(じんいしょく)
健康な腎臓を他者から提供してもらって、自分に移し替える(手術により自分の腎臓を摘出し他者の腎臓を植え込み、血管などを繋ぎかえる)治療です。

家族の腎臓を提供してもらう「生体腎移植」と、脳死や心臓死になられた方の腎臓の提供を受ける「献腎移植」があります。
腎移植を受けた後は腎臓の機能が回復し、腎代替療法の中で唯一根本的な治療法になります。
ただし、腎移植を受けられる人は限られていて、原則70歳以下・手術やその後の治療に耐えられると判断された人のみになります。
移植を行った後も免疫を抑える治療(免疫抑制療法)を受けることとなるので感染症に注意する必要があります。
また、腎臓病の種類によっては腎移植をしても再発することもあります。
② 保存的腎臓療法
保存的腎臓療法とは、「苦しくないこと(緩和ケア)」に焦点を当てながら、最善の最期をサポートするような治療法です。
腎代替療法を「行うことが難しい」「行わない方がよい」「行わないと希望する」場合に選択されます。
腎不全の症状(吐き気・かゆみ・むくみ・貧血など)に合わせて薬の調整を行ったり、時には、息苦しさに対して酸素を使ったり、苦痛が強い場合には眠たくなるような薬(鎮静剤など)を使うこともあります。
酸素吸入
治療選択の時期
では腎臓の機能が落ちてきた時、いつごろから治療について考えるのが良いのでしょう?
これについては特に決まった時期というのはありません。
慢性腎臓病と診断された後、まだ元気な時期から相談していくことが望ましいです。
特に高齢者は感染症やがん、心不全などをはじめとした全身の病気とともに急に腎機能も悪くなることが多いです。
透析治療を行う場合はeGFR(推定糸球体濾過量)が10ml/min を下回ってくるころに開始することが多いです。
腎不全の症状が強い・状態が不安定な場合はそれよりも早めの段階から治療を始める場合もあります。
また、腎移植の場合はさらに早い時期から治療を考慮します。
あなたは透析治療、受けますか?
では、訪問診療を受けている患者さん、あるいは寝たきりの患者さんが透析治療を受けるということは一般的なのでしょうか?
訪問診療を受けている患者さんは年齢的に腎移植を受けられないことが多く、透析か保存的腎臓療法かの選択をすることになります。
日常生活を助けてくれるサポーターの皆さんがいることがほとんどなので、本人家族だけでなく、ケアマネージャーさん、訪問看護、ヘルパーさんなど、生活をサポートしてくれる人たちと一緒に最善の方法を考えていきます。
基本的にどの治療も、実施することは理論上は可能です。
透析治療
少なくとも週に6回は通院に伴う移動があるわけですが、それを許容すれば、訪問診療を受けている寝たきりの人でも週3回の血液透析(通院もしくは自宅で)を行うことは可能です。

また、数は多くないですが、寝たきり患者さんに家族が自宅で腹膜透析を行うこともあります(「PDラスト」といいます。)
例えば血液透析の通院が大変になってきた患者さんが、手術を受けて腹膜透析を始めることもあります。
対応できるクリニックは限られてくるかもしれませんが、訪問診療での治療を続けることも可能です。
ただ、いずれにせよ透析を始めると、生活のリズムが大きく変わります。
1回の血液透析には4時間ほど必要で、それを週3回、通院もしくは自宅で行うのは相当な負担がかかります。
クリニックによっては送迎があることもありますが、血液透析中はベッドで横になっている必要があり、時間的・空間的な制約が強いです。
透析のたびに太い針を刺す必要があるので、麻酔をしてもある程度痛みます。

透析によって老廃物が除去され元気ピンピンになるかというとそんなことはなく、4時間終わったときには疲労が溜まり倦怠感が強く出ることも珍しくありません。
保存的腎臓療法
一方で、保存的腎臓療法はどうでしょうか?
「透析はしないで、薬や食事療法を中心にゆったり過ごす」保存的腎臓療法も良い選択だと思います。
もちろん、透析をする場合に比べて、腎不全による症状(だるさ、浮腫、息苦しさ)の改善は得られにくいですし、生きられる時間は短くなります。
ただ、最期までの時間は人それぞれですし、途中で起こる症状も人それぞれです。
透析治療と比べ、時間的・場所的な制約は少ないため、最期まで好きなときに好きなことをして好きなものを食べて、自分らしくいられる可能性は高まるでしょう。

年齢が高ければ高いほど、透析治療を導入しても生活の質(QOL)が上がりにくかったり、残りの寿命が延びにくかったりします。
超高齢になると、100%ベストな医療を受けることは難しく、治療を受けても病気が治る可能性は低くなります。
透析治療も、病気を治す治療ではなく、あくまで働けなくなった腎臓の替わりをしてもらうにすぎません。
超高齢患者さんにとって、最善の医療を受けることが、必ずしもいいこととは限りません。
実際に透析治療を受けるとなったらどのような生活になるかを思い浮かべ、最期まで自分らしくいるためにはどのような選択をすべきか、よくよく考えて決める必要があるでしょう。
90歳を超えて透析治療を受けるべきでないという立場ではありませんが、どういう形であっても、本人・家族・周囲の人たちが理解・納得された上で治療を進めることが大切と考えます。
最後に 実際にご担当した患者さんのお話
当院が訪問診療で担当していた末期腎不全の患者さんがいました。
その患者さんは、末期腎不全という診断を受けて以来、ご本人・ご家族とも保存的腎臓療法を希望されていました。
浮腫が強かったので、利尿薬の治療を中心に行いました。
浮腫を完全に取ることはできず、動く時の息苦しさはあったようです。
尿毒症の症状がだんだん強くなり、机に突っ伏して寝ている時間が増え、自宅療養(訪問診療)を始めてから5ヶ月後、ベッドで眠るようにお亡くなりになりました。
寝たきりになるギリギリまで、食べ慣れたご家族の手料理を食べられていました。
最期はとても穏やかなお顔でした。
慢性腎臓病と言われている方はご家族・サポーターと今後のこと、ぜひ一度ご相談くださいね。
それでは、また。
