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高齢者の健康診断と腫瘍マーカー

[2025.05.31]

みなさん、こんにちは。

 

今日は、高齢者における健康診断の意味や必要性についてお話しします。

 

訪問診療をしていると、たびたび「市から健康診断の案内がきたんだけど、行ったほうがいいの?」と聞かれます。

 

白い封筒のイラスト(手紙)

 

基本的には、「行かなくてよい」と返事をします。

 

とはいえもちろん、誰でも「行かなくてよい」という意味ではありません。

 

どういう人は行ったほうがよくて、どういう人は行かなくてもいいのでしょうか?

 

詳しく解説していきます。

 

 

健康診断とは

2年ほど前に、こちらで一般的な健康診断の話をしました。

 

おさらいすると、健康診断とは、「病気の予防・改善・早期発見のため」の検査群であり、日本人の死因上位3位である三大疾病=がん心疾患脳血管疾患を予防するための各種検査・診断のことを言います。

 

「健康診断」のイラスト文字

 

訪問診療を受けている患者さんから「受診に行ったほうがいいかどうか?」聞かれるのは主にがん検診のことです。

 

肺癌を早期発見するための胸部レントゲン写真撮影、大腸癌を早期発見するための便潜血検査や大腸カメラ、胃癌を早期発見するためにバリウム写真や胃カメラ、などが代表的な検査です。

 

 

健康診断は予防接種と同様、予防医療なので、保険が使えず、原則自費負担です。

 

しかし国としては癌を早期発見し治療することで医療費を抑えたい狙いがあり、ある年齢になると、自治体から健康診断に対して一定の補助が出、無料かかなり安い自己負担額で受診することができる仕組みになっています。

 

そのため、定期的に市から健診のお知らせがくるというわけです。

 

 

受診可否の判断基準

高齢者は皆一口に「行かなくてよい」というわけではありません。

 

65歳

まだまだ働き盛りで元気な65歳であれば、できるだけ早い段階で癌を見つけ、見つかり次第手術などすぐ治療を受ければ身体の負担がかなり少なく癌をやっつけることができます。

 

もちろん、再発してこないか定期的に検査を受ける必要はありますが、「早期発見早期治療」が望ましいわかりやすい例です。

 

100歳

一方で、100歳を超え、もうまもなく寿命を迎えそうかなという寝たきりの人にがん検診は必要でしょうか?

 

老々介護のイラスト

 

さすがに家族も、どうにかしてがん検診に連れて行こう!とは思わないですよね。

 

その理由は、「もし癌が見つかっても治療しない(もしくは、できない)から」です。

 

一般的に、高齢になればなるほど、癌の進行は遅くなります。

 

ざっくりですが90歳を超えて今身体の中に癌がいなければ、もう癌からは逃げ切ったようなものです。

 

そこから新たに癌が発生しても、それが原因で亡くなるということにはならず、老衰が先です。

 

極端な例として、元気な65歳と、寝たきりの100歳だと、がん検診を受けるかどうかはわかりやすかったと思いますが、その間の世代をどう考えるか、です。

 

85歳

「その間」はグラデーションになっており、人それぞれで、これが正解!というのはありません。

 

85歳だとして、これまで大きな病気もなく、まだまだ元気で自分で生活できているような人の場合、今癌が見つかったら手術して治してしまおう!と考えるのであれば、がん検診は案内の通りに受けたほうがいいでしょう。

 

手術のイラスト(電気メス)

 

しかし同じ85歳でも、複数病気があって、認知症が進み、いろんな介護サービスを使いながらなんとか生活している人の場合、どうでしょう?

 

癌が見つかっても認知症が進行していると、癌を患ったことを忘れてしまったり、癌というもの自体を理解できなくなってきます。

 

認知症のお婆さんのイラスト

 

なんとしても少しでも長生きして欲しいという家族もいることは理解していますが、そうなってしまうと一般的には医学的に治療適応にはなりません。

 

手術を受けるべく何日も入院できる体力がないとか、それに耐えうる全身状態でない、と判断されることもあります。

 

そうなると、癌が進行しようが転移しようが、痛みなど症状に合わせて苦痛を取り除く緩和医療を受けてもらうこととして、手術はもちろん、抗癌剤の治療なども行わない(行えない)ことになります。

 

つまりがん検診を受けるかどうか、元気な65歳と寝たきりの100歳の間の人たちは、持病や元気度、価値観などに合わせて決めるのがよいでしょう。

 

価値観

もう十分生きた、手術や抗癌剤などつらい治療はもうやらないんだということであれば、がん検診を受けて癌が見つかっても落ち込むだけの可能性が高く、がん検診を受ける必要はありません。

 

癌が見つかった場合、手術や抗癌剤など、多少のつらい治療でも乗り越えて、まだ元気に生きたいんだということであれば、早期発見早期治療が望ましいため、欠かさずがん検診を受けるようにしましょう。

 

 

一般的に訪問診療を受けている患者さんは80代・90代と高齢であることが多く、がん検診に行くのも一苦労です。

 

何か異常がみつかったら、専門の医療機関で精密検査を受けるよう指示されますが、そこに行くのはさらに一苦労です。

 

むしろ通院ができないので訪問診療を受けているのであり、当院の患者さんの中では、癌が見つかってももう手術など治療はしませんという方が多いです。

 

という背景のもと、そういうことであれば、診察時に定期的に血液検査をする程度で、がん検診に行く必要はないですよ、というお返事をしているということです。

 

 

腫瘍マーカー

健康診断の項目としてもありますが、場合によっては通常診療時に血液検査の一項目として「腫瘍マーカー」という数値をチェックすることがあります。

 

採血のイラスト(健康診断)

 

それぞれの癌に特有の腫瘍マーカーがあり(例えば肝蔵癌ならAFPやPIVKA-Ⅱなど)、複数組み合わせて検査すると、これとこれが高いからこの癌の可能性がある、ということが分かることがあります。

 

血液検査で分かるため簡便な一方、CTや胃カメラなど画像診断に比べて、感度・特異度が低いです。

 

癌であっても上昇しないこともあれば、数値が低くても癌であることもあります。

 

簡単に言うと、そこまであてにならない、ということです。

 

保険診療の場合、こういう症状があるからこういう癌を疑って検査提出する、というのが本来正しい検査のしかたです。

 

高齢になってきたから、癌になることもあろうかとなんとなく色々項目を出してみる、というのはナンセンスです。

 

高かったからといって癌だとは限らない上に、低くても安心できるわけでもなく、検査の結果、癌が疑わしい場合、精密検査や手術、抗癌剤の治療をするんですか?という話です。

 

精密検査や手術、抗癌剤の治療を受けないのであれば、そもそも検査する必要、意味がありません。

 

その検査費用、1割負担の人であれば、9割は税金から支払われています。

 

飛んで行くお金のイラスト(円)

 

認知症が進んできた人に腫瘍マーカーの話をしても分からないことが多いです。

 

超高齢になってきた人にとって、今何か症状で困っていなければ、調べないほうが、知らないほうがいいということもたくさんあるのです。

 

補足

一応、腫瘍マーカーの名誉のために言っておくと、すでに癌と診断されかつ腫瘍マーカーが上昇している人において、抗癌剤などの治療が効いているかどうか(効いていれば下がってきます)の確認や、治療後の再発の可能性を探るために有用なのです。

 

これまで癌と診断されかつその際に腫瘍マーカーが上昇していて、例えば手術をして癌を取り除き、定期的に再発チェックの外来を受診する中で、その腫瘍マーカーを定期的にチェックすると、もし再発すればその腫瘍マーカーもまた上昇してきそう、つまり症状はないけど腫瘍マーカーがまた上昇してきたのであれば、再発の可能性を疑う、というのはイメージ沸きますね。

 

腫瘍マーカーはそのように使うものなのです。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

日本では、2人に1人は癌になると言われています。

 

これまで大丈夫だったから、なんともなかったから、今後も癌にならない、ということはありません。

 

これを執筆している自分も含め、その日はいつか、50%ほどの確率でやってきます。

 

今の自分だったら、もし癌になったら手術や抗癌剤の治療をするかな?自分の両親が今癌になったらどうかな?ということを他人事ではなく、日頃から考えておくことが大切です。

 

まだ決めてない場合は、この記事を読んだら、もしくは検診の案内を受け取ったら、いいタイミングだと思ってよく考え、家族で相談してみてください。

 

 

それでは、また。

 

 

真剣な家族会議のイラスト

 

 

 

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