糖尿病の治療②〜全身を守るたのお薬選択〜
みなさん、こんにちは。
今日は糖尿病の治療、最終章です。
たくさんある飲み薬(一部注射薬)について、種類ごとにご説明していこうと思います。
糖尿病の飲み薬について
糖尿病の治療薬は、ここ10〜20年で大きく進歩しました。
以前は「血糖を下げること」が主な目的でした。
しかし、現在はそれに加えて、心臓を守る、腎臓を守る、低血糖を減らす、体重を増やしにくくする、高齢者でも安全に使う──といった、“患者さんごとの背景”を重視した治療が行われています。
日本糖尿病学会のガイドラインでも、「この薬を全員に使いましょう」という時代ではなく、“その人に合った薬を選ぶ”ことが重要とされています。
糖尿病の薬は「血糖値だけ」で選ばない
現在の糖尿病治療では、HbA1cの数値だけで薬を決めることはありません。
年齢、肥満の有無、心不全や狭心症の有無、腎機能、低血糖リスク、食事量、認知機能、生活スタイル──こうしたいろいろな要素を総合的に見て薬を決めます。
たとえば、若い肥満の患者さんと、90歳で食事量が少ない高齢の患者さんでは、同じHbA1cでも選ぶ薬は全く異なります。
65歳以上の血糖コントロール目標
ここで、65歳以上の方の治療目標についてご説明します。
まずは、
・認知症があるかどうか
・日常生活が問題なく送れているかどうか(ADLが保たれているか)
・糖尿病以外の病気はあるか
といった点を確認したうえで、治療の強さを設定します。
若い方では将来の合併症予防のために厳格な血糖管理が重要ですが、65歳以上では事情が異なります。
特に問題になるのが「低血糖」です。
低血糖は、転倒や骨折、認知症の悪化、不整脈、意識障害などにつながることがあります。
さらに、ご高齢の方は「低血糖症状を自覚しにくい」ことも少なくありません。
そのため、“安全性を優先した管理”が重要になります。
糖尿病学会がHbA1cの目安を出しているので、それを参考に、自分が、ご家族がどのくらいの値を目標にしたら良いのか、確認してみてください。
※ 参考:『糖尿病診療ガイドライン2024』 および 『糖尿病治療ガイド2024-2025』
主な糖尿病内服薬と特徴
ここからは糖尿病の飲み薬についてご説明していきます。
ひとくちに糖尿病の薬といっても、種類はいろいろあります。
それぞれ「血糖をどうやって下げるか」という仕組みが違っていて、得意なこと、苦手なこと、向いている人がそれぞれにあります。
代表的なものを順番に見ていきましょう。
ビグアナイド薬
代表薬:メトホルミン(メトグルコ)
糖尿病薬の“ベテラン選手”とでも言うべき、もっとも基本となる薬の一つです。
さまざまな学会で「2型糖尿病の第一選択薬として使う」ことが推奨されています。
体内で効きにくくなっているインスリンを、もう一度しっかり働かせてくれる薬で、体重が増えにくく、低血糖もほとんど起こさず、しかも値段が安い、という頼もしい特徴があります。
特に肥満を伴う2型糖尿病でよく使われます。
たとえば、健康診断でHbA1cが少し高いと指摘された、お腹まわりが気になる働き盛りの方。
こういう方には、まずメトホルミンから始めることが多い薬です。
一方で、腎機能が落ちている方、脱水気味の方、ご高齢の方では副作用が出やすいため、慎重に使う必要があります。
DPP-4阻害薬
代表薬:シタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、テネリグリプチン(テネリア)など
低血糖が起こりにくく、体重も増えにくく、飲みやすい薬です。
やせ型の高齢者や、食事摂取が不安定な方にも使いやすい特徴があります。
安全性が高いことから、日本ではとてもよく使われています。
一方で、HbA1cを大きく下げる力はやや穏やかです。
SGLT2阻害薬
代表薬:ダパグリフロジン(フォシーガ)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)、カナグリフロジン(カナグル)など
「尿から糖を捨てて血糖を下げる」という、ちょっと変わった仕組みの薬です。
最初に登場したときは「えっ、糖をわざわざ尿に出すの?」と驚かれたものですが、いまや糖尿病治療の“主役級”になっています。
血糖が下がるだけでなく、心不全を予防する効果、腎臓を守る効果、体重を減らす効果が大きいことが、近年の研究で次々に分かってきたためです。
現在のガイドラインでは、心不全がある方、慢性腎臓病がある方、動脈硬化性疾患のリスクが高い方には、積極的に検討されます。
たとえば、糖尿病に加えて心不全や腎機能低下も指摘されている、というケース。
一昔前であれば「血糖の薬と心臓の薬と腎臓の薬を別々に……」となっていたところを、SGLT2阻害薬一つが複数の役割を担ってくれます。
ただし以下のような注意点もあります。
・脱水になりやすい
・尿路感染や性器感染が起こりやすい
・シックデイ(風邪・胃腸炎などで体調が悪い日)には飲まない
特に高齢の方では、水分管理がとても重要になります。
GLP-1作動薬
代表薬:セマグルチド(リベルサス/オゼンピック)、デュラグルチド(トルリシティ)、チルゼパチド(マンジャロ)など
リベルサスは内服薬、それ以外は注射薬で、多くは週1回の投与です。
最近、「やせる注射」として一般のニュースでも目にされた方が多いかもしれません。
それがこのGLP-1作動薬の仲間です。
もともとは糖尿病の薬として作られたものですが、食欲を抑え、体重を減らす力がとても強く、低血糖もほとんど起こしません。
一部の薬では、心筋梗塞・脳梗塞・心血管死亡を減らす効果もはっきり示されています。
たとえば、体重がなかなか落ちない、運動も食事制限も続かない、というお悩みを抱えた糖尿病の患者さん。
こういう方の治療を大きく変えてくれる薬です。
動脈硬化のリスクが高い患者さんにも、ガイドラインで積極的な使用が推奨されています。
ただし、吐き気や食欲低下などの消化器症状が起こりやすく、特に高齢の方では、食欲が落ちすぎてフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少)につながらないよう、注意して使う必要があります。
スルホニル尿素薬(SU薬)
代表薬:グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリミクロン)など
膵臓に「もっとインスリンを出して!」と発破をかけるタイプの薬です。
血糖をしっかり下げてくれる頼もしい薬である一方、低血糖を起こしやすく、体重が増えやすいという面もあります。
特にご高齢の方では重症低血糖の原因になりやすく、ガイドラインでも慎重な使用が推奨されており、現在は「少量で使う」方向に変わってきています。
チアゾリジン薬
代表薬:ピオグリタゾン(アクトス)
インスリンを効きやすくする薬で、脂肪肝の改善効果もあります。
ただし、浮腫(むくみ)、心不全の悪化、体重増加には注意が必要で、心臓の状態によっては使いにくい薬でもあります。
α-グルコシダーゼ阻害薬
代表薬:ボグリボース(ベイスン)、アカルボース(グルコバイ)
食事に含まれる糖がゆっくり吸収されるようにすることで、食後の血糖値の急上昇を抑える薬です。
低血糖は起こりにくい一方、お腹が張る、ガスが出る、下痢になるといった消化器症状が出やすい特徴があります。
イメグリミン
代表薬:イメグリミン(ツイミーグ)
2021年9月に日本で発売された、2型糖尿病治療の新しい内服薬です。
インスリンを出しやすくする作用と、インスリンを効きやすくする作用の両方を持っており、さらに細胞内の“ミトコンドリア機能”に作用するという、これまでにないユニークな特徴があります。
低血糖が起こりにくく、食事量が不安定な方、やせ型の方、ご高齢の方にも比較的使いやすい薬です。
ただし、吐き気や下痢、腹部の不快感などの消化器症状が出ることがあります。
「どの薬が一番いい?」ではなく「何が合うか」
糖尿病薬を選ぶうえで大切なのは、「一番効く強い薬」を探すことではなく、“その人に合う薬を選ぶこと”です。
たとえば、
・肥満 → メトホルミンやSGLT2阻害薬、GLP-1作動薬
・高齢者 → DPP-4阻害薬やイメグリミン中心
・心不全 → SGLT2阻害薬、GLP-1作動薬
・低血糖を避けたい → SU薬を減らす
といったように、お一人おひとりで治療戦略は異なります。
訪問診療で特に重要なポイント
高齢の方を診察することの多い在宅医療では、食事量が日によって違ったり、水分をしっかり取らない(暑い夏にエアコンが壊れていることも……)などで脱水になりやすい方や、認知症が進んでうまくお薬を飲めない方もいらっしゃいます。
低血糖のリスクが高い方も多いです。
そのため訪問診療では、「HbA1cを厳しく下げること」よりも、低血糖を起こさないこと、安全に治療を継続できること、その方らしい生活を保てること──を優先するケースも少なくありません。
最後に
いかがでしたでしょうか。
患者さん一人ひとりに合わせた治療選択が、これからの糖尿病診療の中心となっています。
ご本人、ご家族が糖尿病の治療を受けている方の参考に、少しでもなれば幸いです。気になることがあれば、主治医にご相談してみてくださいね。
それでは、また。
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