糖尿病の治療① 〜インスリンを味方に〜
みなさん、こんにちは。
今年の松戸の桜も見事でしたね。

移動中にたくさん満開の桜を見ることができました。
新年度もよろしくお願いいたします。
新年度1回目の投稿は糖尿病シリーズ、インスリン注射についてです。

糖尿病の飲み薬か?インスリン注射か?
おさらいです。
インスリンは、膵臓で作られるホルモンで、糖分を体の細胞に取り込ませることで、血糖値を下げる働きをします。
糖尿病では、このインスリンが「足りない」あるいは「うまく働かない」状態になっているのでした。
インスリンが体の中で十分出されているかどうかで、治療方針が変わります。
体内で十分出されていない場合は、注射によってインスリンを外から補うしかありません(インスリンの飲み薬は残念ながら存在しません。)
注射は「できれば使いたくない」と思われがちな一方で、命を守るために必ず必要となる場面が存在します。
これが「インスリンの絶対的適応」です。
インスリンの“絶対的適応”とは
以下のような状態では、インスリンが必須となります。
① 1型糖尿病
免疫の誤作動などにより膵臓の一部が破壊され、インスリンがほぼ分泌されない状態です。
発症時からインスリンが必須で、中断すると命に関わります。
インスリンなしでは生きていけない代表的な状態です。
② 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
著しいインスリン不足により、体内バランスが大幅に崩れる緊急状態です。
高血糖、脱水、意識障害などの症状が現れます。
こちらは迅速なインスリン投与が必要です。
③ 高浸透圧高血糖状態(HHS)
高度の高血糖と脱水が主体で、特に高齢者に多い重篤な状態です。
意識障害を伴うこともあります。
脱水の補正とともに、インスリン治療が必須です。
④ 重症感染症・手術時・重篤なストレス状態
感染症や手術などでは、ストレスホルモンの影響で血糖が大きく上昇します。
内服薬ではコントロール困難の場合、一時的にインスリンが必要になることがあります。

⑤ 著明な高血糖(例:空腹時血糖 300mg/dL以上など)
極端な高血糖では、経口薬では改善が追いつかないことがあります。
その場合は一時的または継続的にインスリン導入が必要と判断されます。
⑥ 妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠
胎児への影響を考慮し、安全性の高い治療が求められます。
多くの経口薬は使用制限があるので、インスリンが第一選択です。

⑦「絶対的」だけではない ― 訪問診療でインスリンを使う場合
実際の現場では、絶対的適応でなくても、インスリンが必要になるケースも多くあります。
特に在宅医療では、
- 食事量が不安定
- 感染症を繰り返す
- 肝機能や腎機能の低下がある
といった背景から、急にインスリンが必要になるケースも少なくありません。
一方で、低血糖リスクや管理の負担もあるため、「必要なときに、適切な量で、安全に使う」というバランスが重要になります。
インスリン注射薬の種類 〜作用時間別に〜
さて次は、実際の治療で使うインスリンの種類についてご説明します。
一口に「インスリン注射」と言っても、実はその種類はさまざまです。
現在の治療では、作用の速さと持続時間の違いを活かして、患者さんの生活に合わせた使い分けがされています。
インスリン製剤は、大きく以下の5つに分類されます。
① 超速効型インスリン
食事の直前に使用し、食後の血糖上昇を抑える役割です。
- 作用発現:10~20分
- 持続時間:3~5時間
代表例:
- インスリン アスパルト(ノボラピッド)
- インスリン リスプロ(ヒューマログ、インスリンリスプロBS)
- インスリン グルリジン(アピドラ)
⇨ 食事に合わせて使う「食後血糖対策の主役」です。
②速攻型インスリン
やや古くからある製剤で、超速効型より立ち上がりが遅いのが特徴です。
- 作用発現:30分~1時間
- 持続時間:5~8時間
⇨ 現在は超速効型に置き換わることが多いですが、場面によって使用されます。
③ 中間型インスリン
半日程度効果が続き、基礎分泌(ベース)を補う役割です。
- 持続時間:12~24時間
代表例:
- ノボリンN
- ヒューマリンN
⇨ 夜間や空腹時の血糖コントロールに使用されます。
④ 持効型(長時間作用型)インスリン
1日を通して安定した効果を発揮する、現在の基礎インスリンの中心です。
- 持続時間:約24時間以上
- ピークが少ない(低血糖リスクが低い)
代表例:
- インスリングラルギン(ランタス)
- インスリンデテミル(レベミル)
- インスリンデグルデク(トレシーバ)
⇨ 1日1回の注射で、平均して血糖値を下げます。
⑤ 混合型インスリン
速効成分と中間型成分をあらかじめ混ぜた製剤です。
- 食後血糖と基礎血糖の両方に対応できます。
- 1日2回投与が一般的
⇨ 注射回数を減らしたい場合や、1日に何回も注射できない患者さんの治療などで活躍します。
訪問診療での使い分け
訪問診療の現場では、患者さんの生活背景を踏まえたインスリンの選択を行います。
現在のインスリン療法は、「生理的分泌に近づけること」が目標であり、
- 基礎分泌 → 持効型インスリン
- 追加分泌 → 超速効型インスリン
この2つを組み合わせる「強化インスリン療法(Basal-Bolus療法)」というのが標準的となっています。
具体的には、持効型によって1日中安定したインスリン量のベースアップを行い、そして各食事によって上昇する血糖値を抑えるべく、超速効型を食事のたびに追加する、という内容です。
ただ、人によってどこまでしっかり治療を行うことができるかは異なります。
- 注射回数を減らしたい → 混合型
- 低血糖リスクを減らしたい → 持効型
- 食事が不規則 → 超速効型を柔軟に使用
など、「理想的な治療」よりも「継続できる治療」を重視して治療法を選択していきます。
いかがでしたでしょうか。
糖尿病治療において大切なのは、患者さん一人ひとりに合ったインスリンの組み合わせを見つけることです。
インスリンは決して「難しい治療」ではなく、適切に使えば生活の質を大きく向上させる強力な味方なのです。
このコラムをもとに、もし自分や家族が、インスリンの治療を始めることになった場合、どのインスリンをいつ打てばいいか、考えるきっかけになれば幸いです。
それでは、また。
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