災害時、高齢者の健康を守るために ― 避難生活で気をつけたい5つのこと
7月28日、熊本県を中心に最大震度7の地震が発生しました。
被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
国内で震度7が観測されたのは、2024年の能登半島地震以来のことです。
熊本県内では現在も広い範囲で断水が続き、避難所や車中で過ごす方も少なくないと報道で聞いています。
災害で高齢者が亡くなる原因の多くは、建物の倒壊や津波ではなく、その後の避難生活にあります。
こうした死は「災害関連死」と呼ばれ、亡くなった方の約8割が70歳以上です。(内閣府、2023年)
10年前の熊本地震では、亡くなった273人のうち約8割にあたる218人が災害関連死でした。
地震そのものを生き延びた後に、これだけの命が失われています。
避難生活が長引くほど、持病のある方や体力の落ちた方には負担が重なります。
今回は、被災地で高齢者の健康を守るために知っておきたいことを、在宅医療の視点からまとめます。
エコノミークラス症候群
一番気をつけたいのはエコノミークラス症候群です。
医学的には深部静脈血栓症・肺塞栓症のことです。
長く同じ姿勢(座位や臥位)でいると、血流が滞り、特に下肢の静脈内に血栓といって血の塊ができやすくなります。
それが血流に乗って肺の血管に詰まってしまうと、肺塞栓といって、重大な呼吸不全をきたし、場合によっては死に至ります。
元来高齢者は活動量が少なく、自宅内でもあまり動かないことが多いです。
避難所生活になると、居場所も限られ、普段にも増して活動量が少なくなりがちです。
日中は2時間おきぐらいには、立ち上がってちょっとした体操をするとか、ほんの少しでいいので散歩をするなどして、同じ姿勢が続かないようにしましょう。
弾性ストッキングをはいておくのもよい対策です。
片脚だけの浮腫や痛み、ふくらはぎの張りが出てきたら、血栓ができている可能性があります。
すみやかに医療スタッフに相談しましょう。
脱水と熱中症
高齢者は特に夜間にトイレが近い方が多いです。
しかし慣れた自宅環境でないと、なかなかトイレに行くのも億劫ですし、避難所だとすぐ近くにトイレがない場合もあります。
トイレがきれいでなかったり、夜間に慣れない遠いトイレに行くのが心理的負担となり、飲水を控えてしまうケースが多々あります。
今の季節は猛暑で、冷房がしっかり効いているとも限らないかと思いますが、飲水を控えてしまうと、特に高齢者は脱水になりやすく、熱中症のリスクも上がります。
がぶがぶ飲まなくてもいいですが、こまめな水分補給は心がけたいところです。
利尿作用のあるコーヒーもほどほどにしましょう。
トイレへの動線を確保したり、協力・理解が得られれば、特に夜間にはポータブルトイレやおむつを活用する方法もあります。
薬が途切れる
被災地では急病人の診療が優先となり、通常の医療まで手が回りにくい状況になっているかと思います。
しかし、普段の飲み薬を毎日飲めているからこそ、体調が維持できている側面があります。
降圧薬・抗凝固薬・インスリン・抗てんかん薬などは常用薬としては特に切らしたくない部類です。
普段のかかりつけで診てもらえない、もしくは普段の薬局で薬が貰えなそうであれば、救護所や周囲の医療スタッフに早めに相談しましょう。
避難にあたってはお薬手帳やマイナ保険証(または資格確認書)は必須の持ち物です。

薬が足りなくなりそうだからといって、自己判断での中断・減量は危険です。
また、災害救助法適用時には、処方箋なしでも薬を受け取れる仕組みがあります。
口腔ケアと肺炎
高齢者において、避難所では歯磨きが後回し・おろそかになりがちです。
何より面倒ですし、水の確保が難しい場合もあり、水道まで近くないといった理由もあると思います。
しかし口腔ケアが十分でないと、口腔内の細菌が増え、それを唾液や食べ物と一緒に誤嚥することで肺炎が起きやすくなります。
時期によっては避難所でインフルエンザやコロナが蔓延してしまうリスクもあります。
こちらは換気やマスク、手洗いが中心の対策になりますが、体調を崩したあとに肺炎を併発しないためにも、口腔ケアは続けておきたいところです。
毎日しっかり歯を磨くのが難しければ、よくうがいをする、ウエットシートなどで歯の表面を拭く・磨くといった代替手段もあります。
義歯の清潔管理も重要です。
せん妄・不眠
高齢者は若年者と比べ、せん妄になりやすいです。
自宅など慣れた環境以外のところへ行くと、精神不安定になったり、夜間不眠が増悪したりする可能性があります。
急に落ち着きがなくなった、話が噛み合わない、昼夜が逆転した、などはせん妄のサインです。
我慢や性格の問題ではありません。
決して整った環境ではないと思いますが、生活リズムを整えることが何よりの予防策・対応策です。
日中には少しでも身体を動かしたり、日の光を浴びたりして、昼夜のリズムをつけるようにしましょう。
簡単ではないと思いますが、夜間にある程度まとまって眠れると、体力も回復しますし、精神面も安定します。
このほかにも、
・食事・栄養の偏り(タンパク質不足による筋力低下)
・転倒(夜間や慣れない階段・段差など)
・皮膚トラブル・褥瘡
などにもあわせてケアが必要です。
災害関連死は3か月以内に集中することもこれまでの調査で分かっています。
10年前の熊本地震では約8割がこの期間で、いまがまさにその時期にあたります。
遠く離れた場所からできることは限られますが、これまでの災害で分かってきたことが、少しでも役に立てばと思います。
それでは、また。
