人はどのように亡くなるのか?〜在宅看取りの実際〜
みなさん、こんにちは。
これまで、「最期を迎える場所」や「終末期の点滴」など、終末期にフォーカスした記事を挙げてきましたが、今回はより解像度高く、実際の「最期」はどんな感じなのか?についてお話しします。
著名人のニュースで、「癌のステージ4と診断された」ことや「永眠された」ことは報じられますが、その間はどうなってるの?という話です。
それが分からないと、どこでどのように最期を迎えたいか、決められませんよね。
前提として、交通事故などの突然死や、闘病の末に病院で亡くなるケースではなく、余命いくばくだと診断され自宅(もしくは施設)で最期を迎える場合を想定してお話しします。
この場合、亡くなる原因としては、大きく分けて老衰か、癌の終末期かに分けられます。
いずれの場合も、基本的には「衰弱が進んでいって亡くなる」ことが多いです。
老衰の場合
特にこれといって病気が指摘されることなく、加齢に伴って人間としての生理的機能・欲求が弱くなってくることをいいます。
食欲がなくなってきた、寝ている時間が増えてきた、というのがその入り口なことが多いです。

波があることもありますが、次第にそういう症状が進行してきます。
栄養剤を使ったり在宅でマッサージやリハビリをすることもありますが、その進行を緩和する効果はあるものの、根本的に改善することは難しいです。

無理に食べさせるわけにもいきませんので、食欲があるときに食べたいものを食べたいだけと指導しますが、食事量が減ると栄養も落ちますし、摂れる水分量も減って脱水が進行していきます。
活力が落ち、自分で歩くのが難しくなり、寝たきりになり、そうなるとトイレには行けずおむつになり、お風呂に入れなくなります。

身体を拭いてあげる清拭のほか、場合によっては訪問入浴といって看護師さんが入浴介助に来てくれる介護サービスもあります。
一口大に食べやすくした柔らかい食事を用意し食べさせたり、薬を飲ませたり、おむつを替えたり、適宜体勢を変えてあげたり、生活全般に介助を要するようになり、家族である介護者がつきっきりで看病するには相当な負担になってきます。
寝たきりになると床ずれができやすく、深くなると痛いので軟膏処置が必要になります。
そうなってくるとヘルパーや訪問看護の手を借りながら、家族の介護負担を減らしていきます。
飲み込みの機能(嚥下機能)も低下することがあり、食事でむせて肺炎(誤嚥性肺炎)になることもあります。

ただしこの場合、細菌が原因の肺炎ではないため抗生剤は必須ではなく、根本的な解決は難しいためむせにくいもの(とろみをつけた水など)を少しずつ摂取してもらうことになります。
肺炎によって熱が出れば解熱剤を使い、酸素の数値が下がれば場合によっては在宅酸素を導入することもあります。
そうこうしているうちに自分で動くことが難しくなり、次第に意識が朦朧としてきて、呼吸がゆっくりになり、血圧が下がり、心臓が止まって亡くなります。
すっと眠るように息を引き取ることが多いです。
老衰の場合は高齢のことが多く、苦痛はほとんどないことが多いです。
癌の場合
癌の場合、痛みや呼吸苦を伴うことが多々あります。
その点が老衰との一番の違いです。
腫瘍が大きくなってその部分が痛んだり、転移した骨の部分が痛かったり、肺に腫瘍や転移があれば胸水といって肺の周りに水が貯まります。
それが原因で呼吸の機能が制限されて酸素の数値が下がったり呼吸苦が出たりします。
最期を自宅で過ごす場合、麻薬や酸素を使い、ある程度苦痛がコントロールできた状態で退院します。
退院後、苦痛の変動にあわせて在宅医療チームにより薬剤量や種類、酸素量の調整を行っていきます。
余談ですが、麻薬の量が多いと便秘が辛くなる場合があり、こちらも適宜薬剤調整をします。
脇のあたりから針を刺して胸水を抜くこともありますが、いずれ必ずまた貯まりますし、胸水を抜くと血圧が下がることがあるので、退院後自宅で頻回にやるものではありません。
一般的に高齢であるほど症状は軽いことが多く、若年なほど最期の闘病は苦痛を取り除きづらい傾向にあります。
高齢の方は場合によってはほとんど症状がなく、老衰と変わらない経過になることもあります。
一口に「癌で亡くなる」と言っても、腫瘍が破裂して突然亡くなるケースもなくはないですが、壮絶な苦痛の中叫び苦しみながら亡くなるわけではなく、次第に衰弱が進んで亡くなることが大半です。
食事や水分の摂れる量が減っていき、退院時は歩けていたものの次第にベッド上での生活になり、自分では動くことができなくなり、反応が鈍くなって、という経過は基本的に老衰と一緒です。
まとめ
なんとなくイメージ湧きましたでしょうか?
何が起こるかわからないという漠然とした不安は少し減ったのではないでしょうか。
数ヶ月かけて亡くなっていく場合もあれば、症状の進行が早く1ヶ月程度で亡くなる場合もあります。
介護サービスを何も使わず同居のご家族が一人で何から何まで行っておられるケースも聞きますが、正確にいつ亡くなるがが医者にも分からないため、終わりの見えぬ負担を一人で背負い続けるのは現実的ではありません。

自宅での看取りにあたっては、手すり・介護ベッドといった福祉用具、おむつ交換や清拭・生活面の手助けをしてくれるヘルパー、病状の確認や軟膏処置・点滴などの医療行為を行ってくれる訪問看護など、色々な介護サービスがあります。

自宅で看るのが難しければ一時的にショートステイ(介護施設での宿泊)を使ったり、施設へ入ったり、ホスピス・緩和ケア病棟で最期を迎えるといった選択肢もあります。
いずれにしてもこのあとどういう病状経過になるか、どういうサービスがあるかを知っておかないと、本人や家族の価値観と照らし合わせてどういう選択が最善か、判断ができないかと思います。
高齢者が増えていることもあり、施設やホスピスは順番待ちが必要です。

毎度のことながら「その時になって考える」のでは遅く、理想の最期を迎えるためには後手後手にならないように予め想定して事を進めていくことが重要です。
認知症の進行や意識状態の悪化によって本人の意思が正しく確認できなくなってきます。
病状が安定していて考える時間がある今がチャンスです。
これを機に終末期の迎え方について、よく話し合ってみてはいかがでしょうか。
それでは、また。
