なぜお腹に水が溜まる?肝不全と腹水の基礎知識
みなさん、こんにちは。
今日は、題名の通り、肝不全と腹水穿刺についてお話します。
まもなく開院から3年になりますが、当院でこれまで2名の患者さんに対して、ご自宅で腹水穿刺・排液の治療を行いました。
肝不全になるとどうして腹水が溜まるのか?
腹水が溜まると、どうなるのか?
その治療や在宅での腹水穿刺の実際など、解説していきたいと思います。
肝臓の役割
まず肝臓は、右上腹部にある、人体で最大の臓器です。
肝臓の役割は多岐にわたりますが、① 代謝、② 解毒、③ 胆汁の生成、の3つが大きな役割です。
1. 代謝
食事で摂った栄養を、体が利用できる形に作り替えて貯蔵します。
2. 解毒
アルコールや薬、体内で発生したアンモニアなどの有害物質を分解し、無害化します。
3. 胆汁の生成
脂肪の消化を助ける「胆汁」という液体を作り、十二指腸へ送り出します。
肝不全になると
肝不全になると、① 代謝、② 解毒、③ 胆汁の生成、といった機能が損なわれます。
損なわれるというか、損なわれた状態を「肝不全」といいます。
肝不全の原因は様々で、アルコール性肝障害が最多で、C型肝炎ウイルス、非アルコール性脂肪肝炎といった原因がそれに続きます。
昔は「肝臓病=ウイルス(輸血や注射)」というイメージが強かったですが、今は飲酒や過食・運動不足などの生活習慣が主な原因に変わってきています。

例えばアルコール性肝障害の場合は、長年の過度な飲酒により肝臓に炎症が起き、組織が硬くなる「肝硬変」を経て肝不全に至ります。
原因によらず、肝不全になると、黄疸、肝性脳症、出血傾向、腹水貯留、といった症状が出てきます。
黄疸:ビリルビンが排出できず、皮膚や目が黄色くなる。
肝性脳症:アンモニアが解毒できず脳に回り、意識がぼーっとしたり、性格が変わったりする。
出血傾向:血を止める成分(凝固因子)が作れず、鼻血やあざができやすくなる。
腹水:血管内に水分を留める力が弱まり、お腹(腹腔内)に水が溜まる。
肝不全になると必ずしもこれら全ての症状が一度に現れるわけではなく、「肝臓の悪さ」に応じて症状が出てきます。
肝不全の重症度
医療現場では、肝不全の重症度を客観的に評価するためにChild-Pugh分類(チャイルド・ピュー)という指標がよく使われます。
脳症や腹水、血中ビリルビン値など5つの項目を点数化し、合計点でグレードA(軽症)〜C(重症)を判定します。
グレードAではほぼ無症状で、日常生活に支障がないことがほとんどです。
少し進行し、グレードBになると、症状が出始めます。
腹水や軽い黄疸が出始め、「なんとなく体がだるい」「お腹が張ってきた」といった自覚症状がはっきりしてくる段階です。
この段階ではまだ、腹水は利尿剤などの内服薬でコントロールでき、処置は不要なことが多いです。
さらに進行すると、グレードCという「非代償期」に入ります。
ここまで進行してしまうとなかなか改善するのは難しく、後戻りできない状態です。
グレードCでは、腹水、黄疸、脳症などの症状が顕著になり、入院や、腹水穿刺を含む頻繁な医療処置が必要になります。
また、グレードCに入ると、そのおよそ半数の方は1年以内に亡くなってしまうのが現状です。
とはいえ肝不全になるのは、日本では約300〜400人に1人の割合で、癌や心臓病に比べると、罹患率はとても低いです。
腹水
さて、肝不全によって生じる症状で、患者さんのQOLに大きく関わってくるのがこの「腹水」です。
なぜお腹に水が溜まるのかというと、肝臓で「アルブミン」というタンパク質が十分に作られなくなるからです。
血管内に水分を留める力が弱まってしまうため、血管外=腹腔内に水分が漏れ出し溜まってしまうのです。
お腹の中が水でいっぱいになると、おなかが張り、苦しくなり、便秘が増悪したり、食欲が低下したりします。
内服薬で腹水の増加が抑えられているうちはまだQOLは保たれますが、内服薬でコントロールできなくなってきた際には、お腹に針を刺し、腹水を抜かなければなりません。
一度処置が開始となると、よほどのことがない限り、その頻度を減らしたり、辞めたりすることは困難です。
少なくとも週に1回、多いと週2回以上、お腹に針を刺して腹水を体外に排液します。
1回で排液する量は、だいたい2〜4L程度となります。
その時の体調や血圧を見ながら、体に負担のない範囲で調整します。
排液した腹水は黄色透明で、サラサラした性状であることが大半です。
腹水穿刺・排液の実際
腹水を抜くのは、病院だけでなく、住み慣れた自宅(在宅医療)でも実施可能です。
自宅で腹水穿刺を行うメリットとしては何といっても、通院による身体的負担がなく、リラックスした環境で処置を受けられる点にあります。
〜在宅での手順〜
1. 準備: エコー(超音波)でお腹の中の様子と、安全に刺せる場所を確認します。
2. 局所麻酔: 穿刺する部位に痛み止めの麻酔をします。
3. 穿刺と排液: 細い針を刺すか、専用のカテーテルを挿入し、チューブを介して専用のバッグやバケツに腹水を排出します。
4. 排液中:1回約1〜3時間程度かけて、2〜4L程度、排液します。
5. 終了後:針を抜くか、カテーテルをそのまま保管・保護します。
手技中は、ベッドを高くして、横(臥位)になっている必要があります(高低差によって排液します。)
カテーテルが抜けないように刺入部に注意してもらえれば、軽く体勢を変えることは問題ありません。
注意点としては、一度に多量の腹水を抜くと、血圧下がるリスクがあります。
そのため、抜いた腹水を一度濾過して栄養分だけを体に戻す「CART(腹水濾過濃縮再静注法)」や、アルブミンの点滴をしながら腹水を抜く方法もあります(当院では非対応です。)
腹水を抜いた後は、「お腹の張りが取れて、久しぶりに食事が食べられた」と喜ばれる方も多いです。
最後に
腹水が溜まるようになってしまうと、その先、元気に長生きするというのはなかなか難しいフェーズになってきます。
肝不全によって倦怠感や食欲低下が進み、思うように身体が動かなくなってきます。
腹水穿刺が必要な患者さんは、一般的な訪問診療よりも高密度での医療介入が必要になりますが、住み慣れた自宅で残りの時間を過ごしたいという患者さんのお手伝いができればと思い、肝不全・腹水の患者さんも当院ではお受け入れしています。
腹水を抜くことで体が楽になり、少しでも食事が美味しく感じられる、そんな何気ない瞬間の積み重ねこそが、在宅医療の価値だと考えています。
どのようなフェーズにあっても、ご自身の望む場所で過ごすという選択を、私たちは在宅医療の力で後押ししていきます。
それでは、また。
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当院は、松戸市を中心に訪問診療・在宅医療を行っています。
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