「薬でお腹いっぱいなんです。」
突然ですが、このタイトルの言葉は実際に何人もの患者さんから言われた言葉です。
他にも、「気づいたら薬がどんどん増えている」「何の薬を飲んでいるのか分からない」・・・
診察の時にこういった声を聞くことは珍しくありません。
歳をとるほど病気は重なり、通院先も増え、「とりあえず出された薬」を飲み続けてしまいがちです。
薬は本来、体を守るための大切な道具ですが、数が増えすぎると、今度は薬そのものが新たな体調不良の原因になることがあります。
今日は薬の「多剤利用=ポリファーマシー」についてお話します。
ポリファーマシーとは
どんな状態をポリファーマシーというのでしょうか。
簡単にまとめてみました。
薬をたくさん飲みすぎている状態
一般的には、5種類以上の薬を飲んでいると「多いな」と判断されます。
特に 7〜10剤以上になると有害事象のリスクが急増すると言われています(ただし、厚労省によるガイドラインでは何種類飲んだら、という明確な基準はありません。)

薬が増えすぎて“副作用のほうが大きくなる”状態
薬は本来、体を良くするためのものですが、多すぎると、
・ふらつく
・転びやすくなる
・ぼーっとする
・食欲が落ちる
・便秘・尿が出にくい
・腎臓が悪くなる
など、薬の副作用のほうが大きくなることがあります。

不必要な薬や重なっている薬がある状態
たとえば、
・同じような薬が重複している
・もう必要ない薬を続けている
・副作用の症状に対して、さらに薬を足してしまっている
こういう「薬の使いすぎ」もポリファーマシーです。
薬は「ちょうど良い量に整えること」がとても大切です。
高齢者は特に注意!
高齢の方ほど薬によるトラブルが起こりやすく、その理由としては以下が挙げられます。
病気が増えるから
年齢とともに高血圧や糖尿病、心臓病、脂質異常症、便秘、睡眠障害、関節痛・・・・など、複数の慢性病が重なります。
つまり、病気が増えるごとに 薬が増えていきます。

いくつもの病院・診療科に通うから
内科、整形外科、皮膚科、耳鼻科・・・・と複数の病院に同時に通うことが多いため、
・同じような薬が重複する
・他の科の薬を知らずに処方される
ということが起こります。
お薬手帳を持ち歩き、医師に見せるようにしましょう。

体が「薬に弱くなる」から
歳をとると、
・肝臓、腎臓の働きが弱くなる
・体の水分が減り、脂肪が増える
・自律神経が弱くなる
などの体の変化があります。
その結果、薬の効き目が強く出たり、副作用が起こりやすくなったりします。
副作用を“新しい病気”と勘違いされやすいから
これは意外と見落とされがちなところです。
例えば、
・睡眠薬 → ふらつく → 「めまいの薬が追加」
・抗コリン薬 → 便秘 になる→ 「下剤が追加」
・鎮痛薬(NSAIDs) → 胃が荒れる → 「胃薬が追加」
というように、
薬の副作用 → 新しい病気、と思って薬を足すという悪循環が起こりがちです。
気づかないうちに薬が雪だるま式に増えることがあるので、かかりつけ医とともに定期的な薬の見直しが大切です。
注意すべき薬
ここからはより具体的にこんな副作用に注意!というものを挙げていきます。
転倒・骨折(一番注意!)
転倒 → 骨折 → 寝たきり → 余命の短縮という負の連鎖が起こりえます。

特に関連が強い薬として、
・ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬
・抗うつ薬
・抗精神病薬
・α遮断薬(降圧薬・排尿障害改善薬)
・降圧薬の多剤併用
などが挙げられます。
せん妄・認知機能悪化
せん妄は死亡率が大幅に上がる原因と言われています。
認知機能の悪化は言わずもがな、ADLが下がる原因となります。

誘因となりやすい薬として、
・抗コリン薬(かぜ薬、消化器薬、抗ヒスタミン薬)
・ベンゾジアゼピン系(抗不安薬、睡眠薬)
・抗うつ薬の一部
・抗精神病薬
・オピオイド(麻薬性鎮痛薬)
などが挙げられます。
腎機能悪化
肝腎要(かんじんかなめ)の臓器、腎機能が悪くなると様々なトラブルが起こってきます。
・NSAIDs(ロキソニンなどの鎮痛薬)
・ACE阻害薬やARB(降圧薬)
・利尿薬
他にもありますが、特にこういった薬は要注意です。
定期的に血液検査で腎機能をチェックするのが望ましいでしょう。
アドヒアランス低下
具体的な薬の副作用ではありませんですが、薬の数が増えると誤薬、飲み忘れ、服用ミスが増加する原因になります。
その結果、体調の悪化につながりやすくなります。

ポリファーマシーを防ぐために
最後にポリファーマシーを防ぐための工夫についてお話します。
薬を一覧化する
全ての薬を一覧でわかるようにしておくと、何の薬を飲んでいるか把握しやすくなります。
近頃はOTC医薬品と言って、医師の処方箋がなくても薬局やドラッグストアで買える市販薬も多く出ています。
これらの薬や漢方、サプリも分かるようにしましょう。
お薬手帳を使うのがおすすめです。
何のために処方しているかを確認する
大した効き目もないのに漫然と薬を飲んでいる場合もあります。
目的がわからない、効果が少ない薬は減量・中止を検討しましょう。
薬の効果が重複していないか
痛み止めや睡眠薬は重複して出されやすい代表の薬です。
1種類にまとめる、違う薬に変えてみる、など、見直しをするようにしましょう。
一気に減らし過ぎない
急に薬を減らすとどの薬が大事な薬だったかが分かりにくくなります。
薬を中止することでの副作用が出ることもあります。
少しずつ減量しましょう。
薬に頼り過ぎない
薬は魔法のように全ての症状・トラブルを消してくれるわけではありません。
薬に頼り過ぎず、たとえば眠れない場合は眠る前のスマホやテレビをやめて、ストレッチなどでリラックスしてみる、など薬以外の方法も試してみましょう。

これらの工夫は、必ずかかりつけ医と相談しながら取り組むようにしましょう。
特に薬の減量・中止は一人で(自己判断で)行うことは大変危険です。
ポリファーマシーについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
このコラムが薬と上手に付き合っていくための助けに少しでもなれたら幸いです。
それでは、また。
「薬でお腹いっぱいなんです。」
